1-F21インチ/メッツラーME880
2-R18インチ/メッツラーME880
3-VTレプリカフレーム
4-純正スプリンガー
5-シックスオリジナル・トップティー
6-パウコ製エイプハンガー
7-スポーツスタータンク加工
8-ワンオフ・タックロールシート
9-ワンオフ・シッシーバー
10-ワンオフ・ショットガンマフラー
11-リア・PM4potブレーキ
12-フェアバンクス・マグネトー
13-M74リンカート
14-Eg-T/Mオーバーホール
15-マウストラップ取り付け
16-グロスカットペイント


シックス・モーターサイクルも開業して今年で16年と、それは多くのハーレーをカスタムしてきましたがそんな当店でもチョッパーのベースにするのは初めてというエンジン、サイドバルブ・ビックツインの登場です。私がハーレーに乗り始めたのは15年ほど前になるのですが、当時は今とは比べものにならないほどのハーレーブームで現在も名だたる有名なハーレーミーティングも次から次へと開催され、とにかく活気がありそれに合わせたようにきらびやかな数々のカスタムが花咲いていたものでしたがそんなミーティング会場でもサイドバルブ、しかもULなどのビックツインはとても珍しいものでした。ノーマルスタイルでさえめったに見かけることもなく、ましてやチョッパー・サイドバルブなどはアメリカの雑誌でもイロモノ的扱いで極一部のマニアだけのコアな存在で日本には存在しないのではないかと思えるほどだったのです。それが昨今のサイドバルブ・ブームと呼べるほどの盛り上がりぶりは皆さんご承知のとおりです。
理由としては私の考えるところ、旧車を購入しようとするユーザーの屈折した意識の変化があるように思えます。現行ハーレーの完成度の高さゆえの反発かはたまた雑誌などの啓蒙記事の悪影響か旧車ブームと呼ばれてずいぶんと久しいですが、とにかく旧車に対する関心が従来に比べて非常に高く、旧車ならパンヘッドはあたりまえゆくゆくはナックルヘッドを手に入れたいまのだ、それも30年代のナックルね。と言うそら恐ろしい思考が旧車予備軍に浸透しているように思えます。しかし理想と現実は常に噛み合わないもの。不景気の煽りを喰らい憧れの旧車の購入予算が足りない。何とか頑張っても金策がつかず、しかし旧車にはどうしても乗りたい。ならば車体からは旧車イメージだけはとても強く感じられ、しかもナックルや48パンに比べて安価なサイドバルブ購入に落ち着くのではないでしょうか。OHVならどんなものか何となく理解できるのだけど、フラットヘッドってどうなの?情報が無いぞ、やっぱり遅いのかな?という一抹の不安を抱えながら。
ええ、この記事を書いている私もそうでしたよ。もちろん今回の主役、46ULチョッパーのオーナーもそうに違いありません。そして巷でまことしなやかに噂される「悲しきフラッティー」の逸話だけが増えるのです。
サイドバルブの真実はさておき今回のULチョッパー、アメリカからベース車両として輸入したものでしたが、しかしこれがまたインパクトの強いチョッパーだったのです。社名不明のネックの高いフレームで自転車用のグリップ?が付いたハンドルにメガホンマフラーなどいわゆる、イケイケのスタイルにされていたのですが、現物をよく観察すると全体の造りがとにかく荒いことに加えて前オーナーの悪趣味ともいえる装飾が目に付きました。ガソリンやオイルのタンクキャップは樹脂製の良く言えば前衛的とも言えなくも無い珊瑚のようなチャチな造作。パープルペイントされたフレームにぶら下げられたスターウォーズのソロ船長のチンケなフィギュア等、サイドバルブの雰囲気も含めて奇妙なおバカチョッパーだったのです。
そのようなベース車両だったので使えるパーツは出来る限り再利用して製作を進める予定だったのですが、個性のキツいフレームは即座に廃棄新たにVTレプリカフレームにエンジンを載せて基本的なレイアウトを変更、根本的なイメージを一新してから細部を仕上げることにしました。
幸いにも スプリンガーフォークは30年代の純正っぽいのでリサイクル。これにフロント21インチ、リア18インチのホイールを履かせ軽快なフォルムを造り、されにフレームにもで及ぶ鮮やかなオレンジペイントを施しシックスの伝統的なスタイルでありながら、古めかしい造作のサイドバルブ臭さを感じさせないスマートなチョッパーへと仕上げました。これにはペイントをタンクやフェンダーまでトータルコーディネートしてくれた「グロスカット・ペイント」ショップの貢献が非常に大きいものとなっています。
製作時間も構造的にシンプルなサイドバルブだったのでオーバーホールもスムーズに済み、ペイントもペイントショップの仕事の空いている時期だったことも重なり異例なことに半年あまりの超特急で完成しました。オーナーも大満足の様子です。ところで、このオーナーは女性アーティストYUIの大ファンでありまして、このチョッパーも愛をこめて「UぃL」と呼んでおります。この愛称「UぃL」で各地のYUIのコンサートを巡るようなので、もしこの記事を読んでいるあなたがYUIのファンならばコンサート近くの路上で目にする機会があるかも知れませんね。とにかくオーナーベタ惚れのこのチョッパー、B級テイストを極力廃したスタイルのULチョッパーは日本では数少ないと思いますので、YUIのファンで無くてもどこぞのミーティング会場でこのチョッパーを見かけることがあれば、そっと「UぃL」と囁いてあげてください。


やっぱり付いていると嬉しい30年代のビンテージ純正スプリンガーフォークはブラックペイントされ、シックスオリジナル・トップティーを介してショベル純正ライザー、パウコ製エイプハンガーとのスタンダードな組み合わせとします。さらに、ベース車両の時点でミッショントップが旧車ならではのメカニカルトップではなかったので、ここは潔くジョッキーシフトはパスしてハンドクラッチに変更。旧車で現行車と同じクラッチシステムは走行性能を上げるための正当カスタムともいえるもので、変な旧車意識が高くないあたり実にマニアック好みな仕様です。

社外のキング・スポーツスタータンクを幅詰め加工の後、入念にラインを整形した見た目以上に手間のかかったタンクです。ペイントも海外ビルダーのチョッパーから発想したオレンジベースを元に大阪で活動を始めたばかりの関東帰りのペイントショップ「グロスカット」の協力を得てコテコテのナニワ臭の全く感じられない素晴らしい仕上がりとなりました。フレームも単なるベタ塗りではなくラグ部分などは雰囲気の良いグラデーション処理をされたクオリティーの高いもので、ベージュの幾何学的ラインが新旧イメージの融合を巧く表現したものとなっています。


ハーレーの旧車に詳しくない人から見れば2サイクルエンジンのように思えるエンジン、サイドバルブです。ヘッドカバーはスチール製の空冷フィンの低いタイプのもので、アルミ製と比べビンテージテイストをより強く感じることが出来ますね。さらに、タンクの小さなチョッパーでは、タンクとエンジンの隙間がより大きく表現できるのでこれぞフラッティー・チョッパーだと感じさせる仕様でもあります。フェアバンクス製のマグネトーはベース車のモノを調整して再利用、シンプルなショットガン・マフラーはパイプを切った貼ったしたワンオフものでシンプルな造作に好感が持てます。

キャブレターは怪しげな社外品だったので、パワーアップの期待も少しはこめてM74リンカートをチョイス。装着にはマニホールドの穴加工が必要となります。電装系は言わずもがなの12Vに変更。プライマリーはチェーンでカバーもノーマルカバーとしています。この旧車独特のプライマリーカバーはセルが設定されていないのでそのための強度が必要とされず、本当のチェーンカバーの機能だけでしかなくチョッパーにそのまま付けてもダルさを感じさせることはありません。シフトペダルはロッカークラッチのベース部分を加工したもので、チト気の効いた造作となっています。


プレーンなフォルムのワンオフ・シッシバーに現行品のキャッツアイ・テールランプで、リア廻りのシンプルなスタイルを表現します。シッシバー自体アクの強いパーツですのでバイクのイメージに合った造作になるように気をつけねばなりません。これ一つで全体の雰囲気を左右しかねない重要なパーツということです。シックスでは概ね今回のようにシンプルな造作が多いですね。ちょっと変わった縦にラインが入ったタックロール・シートもワンオフで車体のスポーティなイメージに合致したスタイルです。

元のベース車両の時点からリアはドラムブレーキではなく、PMのブレーキシステムが使われていましたので、ここはそのまま流用しました。旧車とはいえノンビリとしたスローライフなものではなく、現行車にも対抗しうる(願望)アグレッシブなイメージを強く主張する仕様です。そのためタイヤもビンテージパターンは選ばずにメッツラー社のME880という機能的なパターンのタイヤを選択しました。ちなみにフロントはブレーキレスだったのですがそれはどうかということでドラムブレーキを装着しました。


OCT .2010